はじめに
こんにちは!株式会社SOARIGでエンジニアをしているあおいです。
MCPについて調べると、だいたいこう説明されています。「AIと社内のデータやツールを繋ぐための共通規格」。これは合っています。
ただ、この説明だけだと、繋がらないことが一つあります。
ここ最近、「シャドーAI」という言葉を急に見かけるようになりました。会社が把握していないところで、社員が勝手にAIを業務に使っている状態のことです。対策すべきだ、ガバナンスが必要だ、という話も増えています。
でも、なぜ今なのかを説明している記事は、あまり見かけません。
AIが便利になったから、では説明が足りないと思っています。便利なだけなら、去年も一昨年も便利でした。今年になって性質が変わったのは、AIそのものではなく、AIと社内を繋ぐコストのほうです。
そしてそれを変えたのがMCPです。今回はその話を書きます。
対象読者
- 社内のAI利用が把握できていないことに不安がある方
- MCPという言葉は聞くが、それが自社に何をもたらすのかが掴めていない方
- AI利用のルールを作る立場にいる方
- 「うちはまだAI活用が進んでいないから関係ない」と思っている方
記事の構成
- MCPが実際に変えたこと
- 繋ぐコストが下がると、繋ぐ人が変わる
- 隠していないのに、見えなくなる
- 禁止しても解決しない理由
- では、どうするか
1. MCPが実際に変えたこと
まず前提を短く共有させてください。ここは既にご存知の方は読み飛ばしていただいて大丈夫です。
MCPが登場する前も、AIを社内のツールに繋ぐことはできました。できましたが、繋ぎ方がバラバラでした。
AIの側にもいくつも種類があり、繋ぎ先の社内ツールにもいくつも種類がある。そして繋ぎ方に決まりがないので、「このAIとこのツールを繋ぐ」という組み合わせごとに、その都度作る必要がありました。AIが5種類、繋ぎたいツールが5種類あれば、25通りぶんの作業が発生する。しかもAIを乗り換えたら作り直しです。
MCPがやったのは、この間に共通の規格を一枚挟んだことです。
繋ぎ先の側が「MCPの決まりに沿った出入り口」を一つ用意しておけば、その規格に対応しているAIならどれからでも使えます。5×5が、5+5になった。作るのは一度で、AIを乗り換えても作り直さなくていい。
MCPが変えたのは、繋ぎ方の本数
5 × 5 = 25通りを個別に作る。AIを乗り換えたら作り直し。
5 + 5 = 10出入り口を一つ用意すれば、対応AIならどれからでも使える。
技術的にはそれだけの話です。地味に聞こえると思います。実際、規格というのはたいてい地味です。
ただ、地味なぶん、効き方が大きい。
なぜ「今」なのか
ここで冒頭の問いに戻ります。
MCPという規格が発表されたのは、おととしの終わり頃でした。ただ、規格が決まっただけでは何も起きません。実際に効き始めるまでには、二段階ありました。
一段階目は、AI側の対応です。 去年の前半にかけて、主要なAIサービスや開発ツールが次々とMCP対応を表明しました。ここで「MCPに対応しているAI」が一気に増えました。
二段階目は、繋ぎ先側の対応です。 去年の後半あたりから、各種のサービスが公式のMCP対応を出し始めました。以前は繋ぎたければ自分で作るしかなかったものが、用意されているものを設定するだけで済むようになった。
この二段階が揃ったのが、ちょうど最近です。AI側だけ対応していても、繋ぎ先が対応していなければ結局自作が必要でした。両方が揃ったところで、繋ぐコストがほぼゼロになった。
シャドーAIという言葉を今年になってよく見るようになったのは、モラルが下がったからでも、AIが急に賢くなったからでもなく、ここです。
2. 繋ぐコストが下がると、繋ぐ人が変わる
ここからが本題です。
繋ぐコストが下がったとき、変わるのは作業時間だけではありません。誰がそれをやるのかが変わります。
以前、社内システムをAIに繋ごうとしたら、それは一つのプロジェクトでした。要件を整理して、工数を見積もって、予算を取って、情シスなり開発チームなりに依頼する。当然、その過程で「その情報をAIに渡していいのか」という確認が入ります。
ここで大事なのは、その確認は「ルールで決まっていたから」入っていたわけではないということです。
繋ぐのに人手と時間とお金がかかっていたから、必然的に誰かの承認を通っていた。統制が効いていたのではなく、コストが高かったので、結果として統制されているように見えていただけです。
MCPは、そのコストを消しました。
いまは、エンジニアが自分のパソコンで設定ファイルに数行書けば、手元のAIが社内のツールを触れるようになります。公式やOSSで公開されているMCPサーバーもどんどん増えているので、自分で作る必要すらないケースが多い。
数分で終わる作業に、稟議は上がりません。
これは誰かがルールを破ったという話ではないんです。承認を通す理由そのものが、技術的に消えたという話です。統制が効いていたのは、ルールがあったからではなく、繋ぐのが大変だったからです。大変でなくなった瞬間に、支えが外れました。
3. 隠していないのに、見えなくなる
うちで実際に起きていたことを書きます。
去年から今年にかけて、社内のエンジニアメンバーは各自でMCPを取り入れていました。社内データや開発ツールとAIを繋いで、業務を効率化していく。これ自体は素晴らしいことで、止める理由はどこにもありません。
ただ、会社の側から見ると、こういう状態でした。
- 誰が、どのデータをAIに繋いでいるのか分からない
- どんな使い方をして効率化しているのかも分からない
- 何か問題が起きたとき、追いかける手段がない
誰もルールを破っていません。 隠してもいません。それぞれが新しいものをキャッチアップして、業務を改善するために取り入れていた。その結果として、見えない状態ができあがっただけです。
シャドーAIというと、規則を無視した利用者を思い浮かべやすいのですが、実際に起きるのはこちらのほうだと思っています。優秀で、意欲があって、手を動かせる人ほど、先に繋ぎます。禁止されていないなら、なおさらです。
そして本人にも「これは報告が必要なことだ」という感覚が生まれにくい。設定ファイルを数行書くのは、便利なツールを一つ入れたのと感覚的には同じだからです。
4. 禁止しても解決しない理由
ここで「では社内のMCP利用を禁止しよう」となると、話がこじれます。
うちで実際に問題だと感じていたのは、シャドーAIだけではありませんでした。もう一つ、AI格差がありました。
エンジニアが各自でMCPを使って業務を爆速で効率化していく一方で、非エンジニアのメンバーは、ブラウザからAIに文字を入力して返事をもらう、という段階にとどまっていました。社内データと繋がっていないAIと、繋がっているAI。全社に同じAIが入っていても、できることは全く違います。
この状態で「繋ぐのは禁止」とやると、どうなるか。
エンジニアは元の効率に戻り、非エンジニアは元のまま。つまり、禁止して得られるのは、格差の解消ではなく全体の停滞です。 しかも、繋ぐコストがこれだけ下がっている以上、禁止しても水面下では続きます。見えないまま続くだけです。
繋ぐことは、止められないし、止めるべきでもない。前提はここだと思っています。
5. では、どうするか
やることは、シンプルに書くとこうなります。
繋ぐこと自体は歓迎する。ただし、繋ぐ経路を一本にする。
個人がそれぞれ自分のパソコンから社内システムに繋ぐのではなく、会社として一つの窓口を用意して、そこを通ってもらう。その窓口がMCP Gatewayです。
窓口を一本にすると、こうなります。
- 誰が、いつ、どのツールを使ったかが記録として残る
- アクセス権を全社員のパソコンに配らなくてよくなる
- 誰かが作った便利な繋ぎ込みを、一度登録するだけで全社員が使えるようになる
三つ目が、格差の話への答えでもあります。エンジニアが個人のパソコンの中でやっていた効率化を、全社の資産として置き直せる。実際うちでは、社内wiki検索を一つ登録したことで、非エンジニアのメンバーもチャットから社内文書を引けるようになりました。
このあたりは過去の記事で詳しく書いているので、興味があればそちらを読んでみてください。実際に社内で構築した話と、最初に繋いだMCPサーバーで権限をどう通したかの話を書いています。
おわりに
まとめると、こういう話でした。
- 昨年から今年にかけてMCPの対応が出揃い、AIと社内を繋ぐコストが大きく下がった
- コストが下がったことで、わかる人は各自で繋いで業務効率化を進めるようになった
- 統制が効いていたのは、ルールではなく繋ぐのが大変だったから
- 禁止で戻すことはできない。繋ぐ経路を用意するしかない
シャドーAIは、社員のモラルの問題として語られがちです。でも、実際に起きているのは技術的な前提が変わったことだと思っています。
もし今、社内でAI活用がそこまで進んでいないように見えているなら、それは「まだ何も起きていない」ではなく、「まだ見えていないだけ」かもしれません。
繋ぐのを止めるのではなく、繋ぐ経路を用意する。そこから始めるのがいいと思います。