はじめに
はじめまして!株式会社SOARIGでエンジニアをしているあおいと申します!
今回は社内向けにMCP Gatewayを構築していったので、なぜ作ったのかや実際作ってみて効果はどうなのかというところを話していきたいと思います!
対象読者
- MCPは知っているけど、MCP Gatewayってなんだ?っていう方
- 社内でAI活用は進んでいるけど、管理(シャドーAIなど)に困っている方
- セキュリティが気になって社内のAI活用が進んでないよという方
記事の構成
- MCP Gatewayとはなにか
- なぜ、いまMCP Gatewayを社内で作ろうとなったか
- MCP Gatewayを導入しての所感
- 今後の課題
- 構成に関して
1. MCP Gatewayとはなにか
「MCP Gateway」を理解するために、まずは前提となるMCP(Model Context Protocol)について、簡単に説明します。
MCPとは、一言で言えば「AIと、社内のデータやツール(Slack、GitHub、社内データベースなど)を簡単に繋ぐための共通の仕組み」です。通常、このMCPはエンジニアが自分のパソコン内だけで完結させて使うことが多いのですが、それを会社全体で安全に共有し、一元管理できるようにした「会社のAI専用の安全な玄関口」が、今回構築したMCP Gatewayです。
AIに社内データを読み込ませたり、社内ツールと連携させたりすると業務は劇的に効率化します。しかし、社員が個人の判断でバラバラに社内データとAIを繋ぎ込もうとすると、企業としては大きなリスクや課題が生まれます。
例えば、社内の機密データにアクセスするためのパスワードや権限を全社員のパソコンに個別に設定・配布しなければならず、漏洩リスクが跳ね上がります。また、誰が、いつ、どんな社内データをAIに送ったのか、またはAIを使ってどんな操作をしたのかが会社側から全く見えなくなる、いわゆる「シャドーAI」の状態に陥ってしまいます。
そこで、社員が使うAIと会社のデータの真ん中に立ち、すべての通信を安全に仲介(プロキシ)するのがMCP Gatewayの役割です。
このGatewayを導入することで、主に3つのメリットが生まれます。 まず、社員のパソコン一台一台にアクセス権を設定するのではなく、Gateway側で安全に権限を一元管理できるため、万が一の漏洩リスクを最小限に抑えられます。次に、「誰が、どのツールを使って、どんなデータをAIに読み込ませたか」という利用ログをすべて一括で記録できるため、セキュリティ監査や社内のAI利用状況の可視化が容易になります。そして最後に、開発チームが作った「社内ルールを自動で検索してくれるAIツール」などの便利な仕組みをGatewayに一つ登録するだけで、全社員のAIから一瞬でその機能が共有・利用できるようになります。
2. なぜ、いまMCP Gatewayを社内で作ろうとなったか
今回、私たちが社内でMCP Gatewayの構築に踏み切った背景には、社内のAI活用が進むにつれて見えてきた「2つの大きな課題」がありました。
1つ目は、「エンジニアと非エンジニアの間で広がるAI格差」です。 現在、社内のエンジニアメンバーは各自で積極的にMCPを取り入れ、社内データや開発ツールとAIを連携させながら、爆速で業務の効率化を進めています。しかしその一方で、非エンジニアのメンバーは、ブラウザからUI(画面)ベースでGeminiなどのAIを活用する段階にとどまっていました。 エンジニアが高度な連携機能でどんどん先へ行く中、非エンジニア層は「画面に文字を入力して返事をもらう」という標準的な使い方しかできず、社内での「AIを使いこなせる度合い(AI格差)」が目に見えて開いてしまっていたのです。非エンジニアにこそ、社内データと連携したAIの恩恵を届けたい。これが最初の動機でした。
2つ目は、「エンジニア個人のAI活用のブラックボックス化」です。 エンジニアたちが各自でMCPを使いこなして効率化してくれるのは素晴らしいことなのですが、裏を返せば、それぞれが自分のパソコン上で個別にMCPの設定を行っている状態でした。 そのため、会社側としては「誰が、どのデータをAIに繋いで、具体的にどんな便利な使い方をしているのか」を全く把握できていませんでした。せっかく生まれた便利な知見や効率化のノウハウが個人の中に閉じてしまい、組織全体に還元されない。そればかりか、セキュリティの観点からも「会社が関知できない場所でデータがどう扱われているか分からない」という、いわゆるシャドーAIに近い懸念が生まれつつありました。
この2つの課題を同時に解決するためのブレイクスルーとして、いま「MCP Gateway」を社内で内製しよう、という話に繋がったのです。
3. MCP Gatewayを導入しての所感
正直にお伝えすると、このMCP Gatewayは社内にリリースしたばかりです。そのため、現状としてはまだ連携できている社内サーバー(データソース)が少ないこともあり、実際の活用は先行していたエンジニアのメンバー内にとどまっているのが正直なところです。
しかし、この「安全な玄関口」を社内に構えたことで、すでに2つの大きな変化と手応えが生まれ始めています。
1つ目は、非エンジニアのメンバーから「こんな風にAIとデータを組み合わせて使いたい」という声がポツポツと届き始めたことです。 これまでは「エンジニアが裏で何かすごいことをやっている」という状態でしたが、Gatewayという全社共通の仕組みができたことで、ビジネスサイドのメンバーも「自分たちの業務データもAIに繋げられるのでは?」とイメージしやすくなったようです。その結果、これまでのブラウザ型AI(Gemini)の活用だけでは決して出てこなかったような、現場の業務に即した新しいAI活用のアイデアや要望が自発的に上がってくるようになりました。
2つ目は、「社内のAI活用状況」が本当に見える化されたことです。 今回の構築にあたってGatewayにログ機能を完備し、そのログをすべて「BigQuery」へ連携する仕組みを作りました。これにより、「誰が、いつ、どのツールを使ってAIを活用しているか」がクエリで把握・分析できるようになりました(今後はダッシュボードまで行きたい...!)。 エンジニアが属人的に楽しんでいた効率化のノウハウがデータとして可視化できるようになったことで、「あ、このチームはこんな面白い使い方をしているな」「この連携ツールはみんなよく使っているから、もっと強化しよう」といった、組織的な分析と次の打ち手が見えてきています。
まだスタートラインに立ったばかりで利用範囲も限定的ですが、「安全に管理(可視化)されているからこそ、臆せず次の活用へ動ける」という、理想的なサイクルが回り始めているのを実感しています。
4. 今後の課題
前述の通り、現在は「少数のサーバー(データソース)を連携させ、ログをBigQueryに集約して、社内に展開していくための土台がようやく完成した」という段階です。
この土台をベースに、これから本当の意味で全社にAI活用の恩恵を行き渡らせるため、私たちは次の3つの課題に取り組んでいきます。
① MCPサーバーの数を増やし、活用の幅を広げる(攻め) まずは、AIがアクセスできる社内データやツールのバリエーションをどんどん増やしていきます。Slackや各種ドキュメントツール、社内インフラなど、連携先が増えれば増えるほど、AIがサポートできる業務の幅は掛け算で広がります。ビジネスサイドのメンバーから届き始めた「こんな使い方をしたい」という声に一つずつ応え、実用的な社内専用AIツールをどんどん Gateway に追加していく予定です。
② ダッシュボードを作成し、運用を「見える化」する(守り) BigQueryにログを蓄積する仕組みは作れたので、次はこれを活用して、社内の利用状況が一目でわかるダッシュボードを構築します。これにより、「どのツールがよく使われているか」「どこでエラーが起きているか」をリアルタイムにモニタリングし、現場のニーズに合わせた迅速な改善や、より強固なセキュリティ管理を行えるようにします。
③ 安全かつ自由な運用のルールを固めていく(ガバナンス) 仕組みがどれだけ安全になっても、実際に使う人間側のルールが曖昧では意味がありません。「どこまでの機密データをAIに扱わせてよいのか」「新しいMCPサーバーを追加する際のセキュリティ審査はどうするか」といった、社内運用のガイドラインやルール策定を進めます。ガチガチに縛るのではなく、「ルールがあるからこそ、みんなが安心して自由にAIを使いこなせる」という絶妙なバランスを目指します。
5. 構成に関して
最後に、今回構築したシステムの全体像を簡単にご紹介します。
社内で運用しているMCP Gatewayの構成(すべてCloud Run上)
なお、MCP Gatewayの実体としては、IBMがOSSとして公開している「ContextForge」を採用しました。
入り口はGoogle Chatになります。私たちの会社では、日頃から「Google Workspace」を基盤として業務を行っています。そのため、非エンジニアのメンバーが最も使い慣れている「Google Chat」をAIの入り口(UI)として採用し、そこからチャット感覚で社内情報を検索・活用できる仕組みにしました。
主な構成要素
システム全体のインフラは、すべてGoogle Cloudの「Cloud Run」を使って軽量かつ柔軟に構築しています。
- Google Chat用サーバー:ユーザーとのチャットのやり取りを仲介します。
- AI Agent(Agent Development Kitで作成):ユーザーの意図を汲み取り、どのツールを使うべきかを判断する頭脳の役割を担います。
- ContextForge(MCP Gatewayの実体):全体の連携やガバナンス(監査など)を一元管理する、大黒柱となるシステムです。
- Vertex AI Search(MCPサーバー):社内ドキュメントや散らばった情報を爆速で検索する仕組みです。
エンジニア向けには、自由度の高い入り口も
エンジニアのメンバーに対しては、Google Chatだけでなく、開発環境で使い慣れた「Antigravity CLI」や「Claude Code」を通じて直接ContextForgeへアクセスできる、自由度の高い入り口も残しています。どの入り口からアクセスした場合でも、監査やセキュリティ管理はContextForge側で漏れなく一元的に完結する設計にしているのがポイントです。
ログはすべてBigQueryへ
運用の監視に関しては、各サーバーから出力されるすべてのログを、ログルーター(Cloud Loggingのログシンク)を経由させてBigQueryへリアルタイムに連携しています。これにより、前述した「誰が・いつ・何を・どう使ったか」という使用状況の監視を、会社側で安全に追跡・蓄積できる状態を作っています。